ルイスのキリスト教受容 その4
- Kichan Puchan
- 2017年4月29日
- 読了時間: 3分
4.キリスト教再受容のきっかけ
4.1読書
さて、ルイスが無神論を強めた場所がグレート・ブックハムであったが、キリスト教再受容の発端となる出来事もここグレート・ブックハムで起こった。1915年にサレー州レザーヘッド駅の売店で偶然G.マクドナルドの『ファンタスシス』を手に取った。この本の感想をルイスは次のように言う。
この物語に描かれた森の旅、恐ろしい敵、善悪双方の女たちはわたしの持前の空想癖に訴え、わたしは知らず知らずのうちに物語の中に引きこまれていった。まるで眠っているうちに辺境の地に連れて行かれたような、あるいは昔いた国で一度死んだのに、なぜか見もしらぬ国で生活しているような妙な気持ちだった。しかも今いる国は、昔いた国とよく似ていた。(『喜び』, 236)
これらの感覚を「聖なるもの」であることを後ほどになってルイスは知ることになる。『ファンタスシス』との出会いはルイスの生涯にとって大きな転機となった。ウォレンはこの作品がルイスの思想と作品に大きな影響を及ぼしたと語っている。また親友のアーサーにも、無神論者であったルイスが、この本によって次第にキリスト教へと改宗されてきていると打ち明けている[1]。
さて、ノックの元で研鑽を積んだルイスは、古典文学を学ぶためにオックスフォード大学の新学寮を志願した。残念ながら、新学寮の奨学金給付試験には落ちたが、別学寮であるユニヴァシティ・コレッジから合格通知が届いた。しかし、まだ初等数学を含む学位取得予備試験に合格する必要があった。ノックは、ルイスの文学的判断は非常に優れたものがあるが、数学の能力には甚だしい欠陥があると見ていた。ノックの予想通り、ルイスは数学の試験に合格することができなかった。当面、予備試験に合格するために数学を勉強しなければならなかったが、大学内に寄宿することは許された。そこで、1917年の夏、ルイスはオックスフォード大学内のユニヴァシティ・コレッジに寄宿する傍ら、学徒兵訓練部隊へ入隊した。なぜなら、退役軍人は予備試験が免除されていたからである。そして同年11月には前線に向かった。1918年に塹壕熱と呼ばれる原因不明の熱病に冒されLe Treportの病院に3週間入院したが、その時、ふとしたことからG.K.チェスタートンのエッセイを読んだ。その影響についてルイスは次のように語る。
チェスタートンを読んでいると、マクドナルドの場合と同じように、なぜそんなに夢中になるのか当のわたしにもわからなかった。心底から無神論者になろうと決心した青年ならば、そのためには自分の読書についていくら警戒してもいいのである。いたるところに罠があるからだ。「聖書を開くと、数知れぬ不意打ちや、みごとな罠や策略が仕掛けてある」とジョージ・ハーバードが書いている。あえて言えば、神は実に無遠慮な方なのである。(『喜び』, 251-252)
かねてからの読書好きが無神論者ルイスに「災い」したのである。特に、ルイスにとってG.K.チェスタートンの『永遠の人』は、初めて納得できるキリスト教の歴史の概略だった。
[1] 柳生直行『お伽の国の神学』新教出版、1984、p.67。
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