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特集記事

ルイスのキリスト教受容

1.ルイスの幼年期

C. S. ルイス (Clive Staples Lewis, 1898-1963) は、北アイルランドの首府であるベルファストで、事務弁護士であった父親のアルバート・ジェームス・ルイス(Albert James Lewis, 1863-1923)とノルマン騎士の血を受け継ぐ母親のフローレンス・オーガスタ・ハミルトン(Florence Augusta Hamilton, 1862-1908)の次男として生まれた。母方の祖父は聖マルコ教会の牧師であり、多くの聖職者を輩出した家系であった[1]。一方、ウェールズ出身の農民であった父方の曽祖父は若い時代に伝道師として働いた経験がある。アイルランドへは祖父であるリチャード(Richard Lewis)の時代に移住したが、彼は、一か所に落ち着かない性格であり、コーク、ダブリン、最終的にはベルファストに居を移し、鋼鉄船建造会社の共同経営者として生涯を終えた[2]。両親は聖マルコ教会で結婚式を挙げ、ルイスもそこで幼児洗礼を受けた[3]。母親は、クイーンズ・コレッジで1885年に論理学で第一級優等学位、数学で第二級優等学位を受けたほどの才女であり[4]、ルイスは彼女からフランス語とラテン語の手ほどきを受けた[5]。父親は、雄弁家であり語彙も豊富であった。両親とも読書好きであったが、特に、父親は買った本は処分しないという性分の持ち主だったせいか、家には本が無数にあり、幼年時代のルイスは、読みたいと思う本に容易に手を伸ばすことができ文学が織りなす世界を自由に流離うことができた。実際、ルイスは、学期ごとの寄宿学校への行き帰りの船旅での時間をhours of golden readingと呼び、若き時代における読書の習慣を大切にしていた。読書はルイスの類稀な想像力を養うことに寄与したであろう。また、ルイスの幼年期に影響を与えた人物で忘れてはならないのが3歳年上の兄であるウォレン(Warren Hamilton Lewis, 1895-1973)の存在である。彼らの性格は異なりながらも親密な仲間同士であった。

さて、母方の家系は僧職者を多く生み、父方の曽祖父も伝道師であったことから、ルイスの信仰は父方と母方の両血筋に大きく起因しているように見えるが、実際にはそうではない。

芸術的な経験は乏しかったわけだが、宗教的な経験に至っては皆無と言ってよかった。わたしの著作を読んで、わたしのことを厳格で強烈なピューリタニズムの世界で育った人間と考える人もいるが、それは事実に反する。わたしは教えられるままにごく普通のことを学び、祈りを唱え、然るべき時に教会に行った。言われたことをそのまま受入れただけで、特にそのことに関心を寄せたという覚えはない。(『喜び』, 15)

幼年期のルイスは、宗教的経験は皆無であり、キリスト教に関心を抱いてはいなかったことが見受けられる。実際、ルイスにとって教会は退屈な場所であり、楽しみは教会以外から見つけていた[6]。このことから、ルイスの信仰の基盤を家系に求めることは不自然であろう。

ルイスは6歳の時に母親の死を経験するが、その死の数日前、彼女は二人の息子に聖書を贈った。ルイスは母の病気の回復のため、そして母の死後も奇跡を信じて祈った[7]。しかし、これらもルイスの宗教心の覚醒には至らなかった。ルイスは次のように振り返る。

わたしは神に、あるいはわたしの考えている神に、愛も畏怖も敬虔の念もなく近づいていったのである。奇蹟を待ち望んでいたわたしにとって、神は救済者でもなければ審判者でもなく、ただの魔法使いだった。神はおのれに求められたことを果たすと、上手に消え去るものだとわたしは考えていたのでる。わたしが求めた神との恐るべき接触によって、自分の願いがかなえられる以上の結果が生ずるとは思ってもみなかった。この種の「信仰」は子供にはありふれたことだが、その信仰がくじけたからといって、宗教的にはなんの意味もありはしないとわたしは考える。(『喜び』, 33)

幼年期のルイスにとって神とは、救い主や裁き主ではなく、ただ願いを叶えてくれればそれで消えてしまう魔法使いのような存在であり、子供なりの「信仰」を持って神に対し祈っても愛や畏敬の念の欠如のゆえ、その「信仰」は宗教とは無関係であったと述懐している。

[1] Chad Walsh, C.S. Lewis: Apostle the Skeptics, WIPF and STOCK Publishers, 1949, p.1.

[2] Ibid., p.1.

[3] Colin Duriez, C. S. Lewis-A Biography of Friendship-, Lion book, 2013, p.10.

[4] 竹野一雄『C.S. ルイス 歓びの扉 信仰と想像力の文学世界』岩波書店、2012、p.5。

[5] 柳生直行『お伽の国の神学』新教出版、1984、p.45。

[6] Martin Sutherland, A Myth Retold- Re-encountering C.S. Lewis as Theologian. Series Editor for C.S. Lewis Studies, 2007, p3.

[7] Colin Duriez, C. S. Lewis-A Biography of Friendship-, Lion book, 2013, p.16.

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